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「福島原発被害東京訴訟」提訴にあたって
2011(平成23)年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故(以下「本件原発事故」という。)によって,福島県内から東京都内に避難を余儀なくされた3世帯8名が,国と東京電力を被告として損害賠償請求訴訟を提起した。
国と東京電力は,一体となって,原子力発電事業を推進し,その「安全神話」を振りまく一方,安全対策を怠ったまま原発の稼働を続け,本件原発事故を発生させるに至った。これは,住民の安全を軽視し,経済的利益追求を優先した結果である。
本件原発事故によって広い範囲の地域が放射能によって汚染され,従来の自然豊かな環境に回復するのかさえ分からない。避難を余儀なくされた人たち,とどまらざるを得なかった人たち,生活の拠点から一時的に離れていたが帰ることができなくなった人たち,各地で事業を営んでいた人たちなどに生じた本件原発事故による被害は広範かつ多様であり,極めて深刻である。
避難を余儀なくされた人たちは,本件原発事故により生活の基盤を失い,避難先での新しい生活を余儀なくされている。その生活は「間に合わせ」のものでの対応を繰り返し,家計からの支出を増大させている。のみならず,それまでの人生で積み重ねてきたものを突然失った。誠に残念ながら,福島からの避難者に対する差別もある。
そして,避難区域外からの避難者については,区域内からの避難者と区別され,国や自治体の施策の上でも差別されている。また,区域外からの避難者には,母子のみが避難し,夫(父)は福島県に残るというケースも多く,避難に伴う支出が一層増大していることが多い。
本件原発事故後,文部科学省に設置された原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針第一次追補や原子力損害賠償紛争解決センターは,遺憾ながら区域外からの避難者に十分な賠償を実現するものとなっていない。これは,区域外からの避難者に生じている被害を過小評価するものであり,区域内外の区別によって被害者を差別し,分断を図ろうとするものであって,断じて容認することはできない。
放射線の人体に対する影響については科学的に十分に解明されておらず,放射線被ばくによる健康影響については閾値がないことなどから,避難区域の内外を問わず,放射線被ばくを避けるために避難することは必要かつ合理的な行動である。避難によって生じた損害は,加害者である被告らの責任において賠償されなければならない。
福島原発被害東京訴訟は,区域外の避難者が様々な困難を乗り越えて提起したものである。我々は,本訴訟を通じて,避難者に生じている被害の実相を明らかにし,国と東京電力の加害責任を前提とした完全賠償を実現するため,全力を尽くすことを表明するとともに,広く国民に対しご支援を訴えるものである。
2013(平成25)年3月11日
福島原発被害首都圏弁護団
共同代表 中 川 素 充
共同代表 森 川 清
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