カテゴリー別アーカイブ: 弁護団の考え

国と東電の加害責任を認める!(前橋地裁判決)

2017年3月17日,前橋地裁(原道子裁判長)は,福島原発事故による避難者等の被害者を原告とする訴訟において,被告(国及び東京電力)の賠償責任を認める判決を言い渡しました。全国各地の裁判所で行われている集団訴訟で初めての判決でした。
判決では,
・ 東京電力について,責任根拠を原賠法としつつも,遅くとも2002年には,福島第一原発の敷地地盤面を優に超えて非常用電源設備を浸水させる程度の津波の到来を予見することが可能であり,2008(平成20)年5月には実際に予見していたとし,給気ルーバのかさ上げなどの結果回避措置をとれば,容易に福島原発事故を回避し得たにもかかわらずとして,これを怠ったとして,特に非難に値する事実が認められるとして,実質的に重過失であるとの判断をしました。
・ 国について,遅くとも,2008(平成20)年3月頃には,東京電力に対して,結果回避措置を講じる旨の技術基準適合命令を発するなどの規制権限を行使すべきであったのに,これを怠ったことについて,炉規法及び電気事業法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものとして,国家賠償法1条1項の違法性を認める判断をしました。
この判決は,司法の場において,福島原発事故について,はじめて,国及び東京電力の加害責任を明確にし,断罪したものであり,極めて大きな意義を有している判決です。

他方,原告らが慰謝料額については,東京電力の賠償基準や原子力損害賠償紛争審査会の中間指針等に基づく賠償基準の規範性を実質的に否定しつつも,「裁判所の自由裁量」の名の下に,十分な説明もないまま,極めて低額なものを認定しました。
これは,被害者の被侵害利益である平穏生活権について,自己決定権を中核としたものと捉えたため,被害者の長期に亘る避難生活等の苦難,地域社会やふるさとを喪失した全面的な被害など原発事故被害の本質を充分に捉え切れていなかったことが影響しているものと思われます。
これについては,私たちの福島原発被害東京訴訟をはじめ今後の各地の訴訟での課題になります。

国や東京電力の加害責任が明確となった以上,被害者を切り捨てる政策(区域避難者の応急仮設住宅の無償提供の打ち切りなど)は,以ての外です。
当弁護団としては,今後も,
・ 被害者が原発事故前のくらしを取り戻すためにふさわしい賠償の実現
・ 被害者の切り捨てに繋がっている福島復興再生特別措置法や福島原発事故子ども・被災者支援法の改正をはじめ,原発事故の加害責任を明確にし,生活再建をすすめる新たな立法の制定・施策の実施
を求めていきたいと考えています。

時効問題に関する弁護団共同意見書

30日,当弁護団を含む全国で原発賠償問題に取り組んでいる19の弁護団(末尾に記載)の共同で「福島第一原発事故に係る損害賠償請求権の消滅時効に関し,早急に立法措置を講じることを求める共同意見書」を衆参両院の議長,内閣総理大臣及び関係閣僚,各政党宛に送付しました。
[PDFファイルは→共同意見書
この意見書は,全国各地の弁護団で共同で作成しましたが,意見書の作成・とりまとめの実務においては,特に,原子力損害賠償群馬弁護団の方々に大変尽力して頂きました。どうも有り難うございます。

以下,意見の趣旨と意見の理由をご紹介します。
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第1 意見の趣旨
政府及び国会は,福島第一原発事故に係る損害賠償請求権については民法724条の3年の短期消滅時効及び20年の除斥期間を適用しないとする立法措置を早急に講ずるべきである。

第2 意見の理由
1 はじめに
2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「本件原発事故」という。)から,既に約2年5か月が経過している。
現在も膨大な人数の方が避難生活を余儀なくされており,その人数は福島県民だけで15万1416人(福島県内での避難を含む。)に上る(2013(平成25)年6月13日現在福島県調べ)。
また,放射線被ばくの恐怖を抱えながら従来の住居に残っている多数の方々,福島県民以外の避難者の方々,風評被害等の被害を受けた事業者の方々等も併せると,本件原発事故の被害者数は計り知れない。

2 本件原発事故の被害の特性
被害者は,その損害の賠償を受ける権利を有しているはずであるが,本件原発事故は,広範な地域に住む住民の生活基盤を根こそぎ破壊し,多くの被害者は,約2年5か月経過した現在でも,生括基盤を立て直す見通しが全く立たない状態に置かれており,その損害の全容を把握することは困難を極めている。
過日,原子力損害賠償紛争審査会の能見善久委員長が賠償基準の見直しの必要性に言及したが,本件原発事故から2年以上が経過した時点で未だに賠償基準の見直しが必要となっているのは,正に損害の把握が極めて困難であることの証左である。
また,被害者の中には,避難の途中で被ばくした方,あるいは,現在も低線量被ばくを受け続けている方もおり,晩発性の健康被害も懸念される。その損害の認定方法や賠償額の算定方法については,まだ議論の俎上にすら載っていない。

3 現行法上の消滅時効・除斥期間の概要
原子力損害賠償の消滅時効*1・除斥期間*2については,原子力損害の賠償に関する法律には規定がなく,民法724条が適用されると解されている。すなわち,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年で消滅時効により,また,不法行為の時から20年で除斥期間により,いずれも損害賠償請求権は消滅する。
したがって,本件原発事故の損害賠償請求権は,理論上は,早ければ2014(平成26)年3月にも消滅する危機に直面している。

4 被害者による権利行使の実情
これまでに東京電力の請求書を用い,あるいは原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続を利用して賠償金の支払いを受けた被害者は相当数いるが,そこでは「清算条項」を付さない合意が多用されている(なお,東京電力が最初に作成した請求書類に清算条項が入っていたことは,国会でも大きく取り上げられ,厳しい指弾の対象となった。)。これは,被害の複雑さ故に,当面支払われる賠償金が被害の実態を十分反映した金額となっているか疑義があるため,将来,完全な賠償を受けるための途を残しているものである。
また,本件原発事故から約2年5か月が経過したが,本件原発事故の被害者のうち賠償金を請求している人は一部に過ぎない。東京電力によれば,本件原発事故の仮払金を受領した16万5824人の被害者のうち,本賠償の未請求者は2013(平成25)年5月未現在で計1万1214人にのぼるとのことである。
更に,区域外避難者(いわゆる「自主(的)避難者」)を始め,東京電力が被害者として適切に認定しない方に至っては,中間指針を盾に体よく門前払いされている現実を,我々は目の当たりにしている(なお,それらの方について原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続が一定の成果を上げる場合もあるが,その処理能力に限界があることも自明である。)。

5 時効の中断の特例に関する法律案とその限界
2013(平成25)年5月21日,「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律案」(以下「特例法」という。)が衆議院を通過し,同月29日,参議院を通過して成立した。
これは,原子力損害賠償紛争解決センターに和解仲介申立てを行った本件事故の被害者が,和解仲介の打ち切りの通知を受けた日から1か月以内に裁判所に訴えを提起した場合に,和解仲介の申立ての時に訴えを提起したこととみなすというものであり,同センターに申立てを行った被害者(のうち和解仲介が打ち切りとなった者)のみに限定して,わずかな期間の猶予を与えるというものである。
しかしながら,同センターを利用した被害者は,のベ1万5000人程度であり,上記被害者数に鑑みれば,特例法により救われる者は被害者全体のごく一部に限られ,被害者救済の実効性は極めて乏しい。
しかも,和解仲介手続で請求していなかった損害についても時効が中断するのかなど,その射程範囲が不明確である上,そもそも,現実問題として1か月程度で提訴できるのか,訴訟を日常的に扱う我々には大いに疑問である。

6 附帯決議と更なる立法措置の必要性
特例法に関して,衆議院文部科学委員会は,同月17日,「全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう,短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して検討を加え,法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」という文言を含む附帯決議を,参議院文教科学委員会も,同月28日,「全ての被害者が十分な期間にわたり臆償請求権の行使が可能となるよう,平成25年度中に短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して,法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」という文言を含む附帯決議を,それぞれ全会一致で可決した。これは,立法者においても特例法が極めて限られた範囲での適用しかなく,被害救済に不十分であることを認識していることを示している。
現在,被害者の間で時効問題は非常に大きな関心事となっている。現在の法制度では,清算条項を付さない合意は全く無駄なものとなり,また,東京電力に現在まで請求していない方々や東京電力から冷たい仕打ちを受けている方々は,早晩,消滅時効を理由に切り捨てられるのが目に見えている。
このような不安から被害者を解放する方策は,新たな立法措置しかない。最高裁判例の中には,除斥期間の起算点をずらすことで被害者を救済した事例もあるが,本件原発事故の被害者がその判例に従って司法により救済されるという保障はなく,やはり立法による救済以外にはない。その意味で,上記附帯決議は極めて重要な意義を有している。

7 よって,政府及び国会は,衆参両院の上記附帯決議に基づき,早急に,福島第一原発事故に係る担害賠償請求権の消滅時効については3年の短期消滅時効及び20年の除斥期間が適用されないとする立法措置を講じるべきである。

以上

*1 消滅時効・・・判決の獲得や債務者による債務の承認などの事由(時効の中断事由)により,期間の進行を振り出しに戻せる制度
*2 除斥期間・・・期間の進行が振り出しに戻ることがない不変期間

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[共同意見書の提出弁護団]
福島原発被害弁護団(浜通り弁護団),「生業を返せ,地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団ふくしま原発損害賠償弁護団原発事故被災者支援北海道弁護団原発被害救済山形弁護団,みやぎ原発損害賠償弁護団,福島原発被害救済新潟県弁護団原発被害救済茨城県弁護団原子力損害賠償群馬弁護団福島原発被害首都圏弁護団東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団(原発被災者弁護団),浪江町支援弁護団,原発被害救済千葉県弁護団福島原発被害者支援かながわ弁護団,福島原発事故損害賠償愛知弁護団東日本大震災による被災者支援京都弁護団原発事故被災者支援関西弁護団兵庫県原発事故被災者支援弁護団岡山被災者支援弁護団

東電の賠償問題への姿勢(広野町への回答から)

東京電力は,5月17日,広野町の要望書に対する回答をしました。[東電の回答書
広野町は,「2 今もって町民の帰還率は1割程度であることから,町民の生活再建が出来るまでの期間は完全賠償を行うこと。」と要望しました。当たり前の要求です。

これに対する東電の回答は,
「弊社は,原子力損害賠償紛争審査会による中間指針第二次追捕および平成24年7月20日に政府の方針として公表された避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえ,同年7月24日に公表した避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」において、各区域における標準的な避難解除見込み時期を踏まえた賠償の実施についてお示ししております。
貴町はじめ旧緊急時避難準備区域における避難等を余儀なくされた事に伴う精神的損害,避難・帰宅に係る費用への賠償につきましては,紛争審査会第二次追補を踏まえ,原則として平成24年8月未までとさせていただいております。
・・・中略・・・
平成25年4月以降につきましては大変申し訳ございませんが,既に避難指示が解除されて相当期間が経過していることから,精神的損害への賠償金のお支払いは致しかねますので,何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
・・・以下略」
というものでした。

先日,広野町に行ってきましたが,原発の労働関係者と思われる人以外は,ほとんどいませんでした。町の機能は相当なダメージを受けています。放射線量も高く,除染をはじめ原状回復も遅々として進んでいません。戻った人が1割程度で,大多数の人が避難生活を余儀なくされているのも当然です。しかし,東電は,こうした実情を無視し,賠償を拒否しているのです。
今後,避難区域の「再編」がすすむにつれて,こうした事態は,あちこちで生じるものと予想されます。そして,区域内外による分断と同様に,被害者のさらなる分断がなされていきます。

原子力損害賠償紛争審査会は,最近現地を視察したと報道がなされています。裏を返せば,これまで現地に行くことなく指針等を定めていたということになります。このようなところで作成された指針などは,到底被害実態を反映したものでないことは明らかです。現に,加害者である東電に利用されているのです。

私たちは,こうした動きに屈することなく,すべての原発事故被害者の救済,生活再建を実現させるためにたたかっていきます。

区域外避難者をめぐる問題について(4)~公的支援の欠如[義援金]

今回は,区域外避難者に対する公的支援に関して,義援金の問題を取り上げます。

義援金は,災害の初期にかかる被災者の費用を賄うための原資として,被災世帯にとっては重要な意味を持っています。しかし,この分配においても,区域外避難者は,避難区域等からの避難者とは異なる取扱いを受けました。
日本赤十字社に全国から集められた東日本大震災の義援金は,厚生労働省の指導・協力のもと,学識経験者,被災都道県および日本赤十字社,中央共同募金会をはじめとする義援金受付団体を構成メンバーとする義援金配分割合決定委員会によって,配分の基準が決められました。同委員会は,2011年4月8日,第1次分の配分割合の基準を決めました。それによれば,福島原発事故事故による避難指示及び屋内退避の指示を受けた人に対して,住宅が全壊した場合に準じて,1世帯35万円を分配することとなりました。また,福島県の配分委員会は,福島原発事故事故による避難指示または屋内退避の指示を受けた人に対して,県の義援金として,5万円を追加して支払うことにしました。しかし,区域外避難者については,義援金の配分はありませんでした。
そして,第2次分については,2011年6月7日の同委員会で,都道府県に配分方法が委ねられました(福島県では市町村に更に委ねられました。)。しかし,都道府県への送金額を決める基準となる被災者の数に「原発関係避難世帯」が含まれていたものの,これには区域外避難者はカウントされませんでした。そのため,結局,第2次の義援金についても区域外避難者に配分されることはありませんでした。
以上のとおり,区域外避難者は,地震・津波により,住宅が全半壊した場合や死者・行方不明者がいた場合を除けば,義援金を全く受け取ることができなかったのです。
2013年1月までに,日本赤十字社は,15都道府県に対し,東日本大震災の義援金の分配金として,既に総額3602億円余りを送金しています。しかし,区域外避難者には,ほとんど配分されなかったのです。

公害における「起承転結」[「公害原論」(宇井純 著)から]

みなさんは,宇井純さんをご存じでしょうか?
公害・環境問題研究の先駆者であり,第一人者でした。東大の大学院生・助手時代から水俣病の現地調査を行い,国内外で水俣病の問題を告発してきました。大企業や政府の立場ではなく,公害被害者の立場に立って研究活動をしていました。そのためなのか東大では長年にわたり「助手」に据え置かれたままでしたが,後に沖縄大学の教授となり,精力的に沖縄や世界の環境問題に取り組まれていました(2006年死去)。

彼の著作物に「公害原論」というのがあります。これは,1970年10月から東大工学部で夜間の自主講座として市民向けに行った「公害原論」の講義録です。

同書の98~99頁には,次の内容が記載されています(引用の頁は,「新装版 合本 公害原論」)。
「・・・公害には四つの段階があるらしい。それは起承転結である・・・公害というものが発見され,あるいは被害が出る。それに対して原因の究明,因果関係の研究(第一段目)というものが始まりまして,原因がわかる。これが第二段目とします。そうしますと原因がわかっただけで決して公害は解決しない。第三段目に必ず反論が出てまいります。
この反論は,公害を出している側から出ることもある。あるいは,第三者と称する学識経験者から出される場合もあります。いずれにせよ反論は必ず出てまいります。そうして第四段は中和の段階であって,どれが正しいのかさっぱりわからなくなってしまう。これが公害の四段階であります。この順序が昔から漢詩で使われております起承転結の原則と似ておりますので,起承転結の第一法則と私は言っております。ただ結できちんと締らないところが公害の特徴であります。・・・」

今回の原発事故における放射能汚染被害,健康への影響についても同じ展開になっていることを痛感します。

私たちは,原発事故という未曾有の公害とたたかうことになりますので,これまでの常識・法律論などにとらわれない柔軟な新しい発想が必要ではありますが,他方で,過去の公害事件・薬害事件などの経験・教訓を学び,生かしていかなくてはならないと思います。

原発事故子ども被災者支援法の問題点(1)〜支援対象地域について

原発事故子ども被災者支援法(以下「支援法」)が昨年成立しました。しかし,依然として基本方針すら定まっていません。そもそも,この支援法自体に問題点が内包されています。以下,当弁護団の共同代表である森川清弁護士に支援法の問題点について解説してもらいました。

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支援法の支援対象地域は、いつ定められるのだろうか?
また、定めた支援対象地域は、その後、簡単に変更・廃止されないのだろうか?
実は、支援法には、「支援対象地域」の定義は括弧書きで記載されているものの、支援対象地域を定める時期や手続や形式についての記載がありません。

そうすると、復興庁水野参事官が国会議員の皆さんに対し「法律をちゃんと読んでいただきたい。政府はこれこれにつき必要な措置を講ずる。何が必要かは政府が決めるんです。そういう法律になっているんです。」と述べたように、政府がなんらかの方法で支援対象地域を決めさえすればいいことになります。支援対象地域の廃止も同様です。不意打ち的な対応がとられることもありえます。(*1)

たとえば、支援対象地域を明文で「福島県内の全市町村及び政令で定めた市町村とする」「支援対象地域を政令で定めるための基準は、・・・のほか内閣府令で定める」などと規定しておけば、国会で法改正しない限り、「福島県内の全市町村」は支援対象地域で在り続けるわけです。また、政令や府省令を定めるにあたっては、行政手続法に基づくパブリックコメント制度(パブコメ)による意見を考慮しなければならないこととなっていますから、その他の地域を定めるにあたってパブコメによる意見提出の機会があり、不意打ちもしにくくなります。

意見の反映として、支援法14条に「国は、第八条から前条までの施策の適正な実施に資するため、当該施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、当該内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものとするために必要な措置を講ずるものとする。」と規定されていますが、意見反映のために何が必要かも政府が決める建付けになっていて、政令・府省令のようにパブコメが義務付けられているわけではありません。
また、厳密にいえば、支援対象地域の設定について何らの規定がないので、支援法14条の規定の対象となっていないともいえます。意見考慮の要請が強いはずのところに、全くそのようなものが明文で盛り込まれていないのです。

ですから、法律上は、容易に支援対象地域の廃止もできるわけです。
政令で定めた支援対象地域を廃止するには、政令・府省令の改正をしなければならなくなりますから、当然パブコメが義務付けられることとなります。
しかし、それがないわけですから、支援対象地域について、政府を法的に拘束するものはないので、政府が必要だと判断すればいいこととなります。
支援対象地域を定める時期や手続や形式について明文化することはとても大事です。今回の決定だけでなく、その後の改廃まで関わりますので、今からでも遅くありません。支援対象地域を定める時期や手続や形式を明文化すべきです。

*1 http://www.ourplanet-tv.org/?q=node%2F1556
5分くらいのところで、引用の水野参事官の文言が登場します。

 

[この記事の短縮URL] http://wp.me/p3fgyo-2m

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)の不当な対応事例

原発賠償問題に関しては,迅速に解決することを目的に,2011年9月に原子力紛争解決センター(俗に「原発ADR」)が設置されたことはご存じかと思います。
しかし,設置当初から,裁定機能がないことや時効中断効がないことが問題点であることが指摘されました。このことについては,後日述べたいと思います。
また,迅速な解決を標榜していましたが,審理期間がかかっていることが指摘されています。

実際に,当弁護団において,昨年3月に紛争解決センターに申し立てた事例がありますが,その対応が極めて問題なので紹介します。
今回3月11日に提訴した原告の方のケースです。

[経過]
●2012年 3月27日 原子力損害賠償紛争解決センター申立
●2012年 4月27日 仲介委員,担当調査官が決まったとの通知
●その後,補充書面の提出と領収書などの提出し,東電からも書面が出ました。
●2012年10月頃   担当調査官の交代
●2012年10月24日 調査官から電話で連絡
その際のやりとりは,
 調査官「口頭審理は不要と考えている。文書で仲介案を出す。」
 弁護団「慰謝料その他争いがあるので、是非、本人から直接話を聞いてほしい。再考して欲しい。」
 調査官「仲介委員に伝えて検討する。」
(しばらくして電話かかってくる)
 調査官「やはり、口頭審理は不要と判断した。慰謝料が中間指針追補を超えると主張するのであれば書面で提出すること。」
 弁護団「納得できない。再考の余地はないのか?」
 調査官「決定事項である。」

●その後,補充書面提出を提出しました。

●2013年1月31日 電話連絡
・来月(明日)から担当調査官が交代する。
・ただ、新たな調査官の名前は知らない
・事件が多く、仲介案提示の処理が追いつかないので、もう少し待って欲しい。
・ただ、いつ提示できるかは明言できない。
というものでした。
●本日現在,未だに仲介案は出ていない。

つまり,1年以上の間,調査官が交代して3人目となり,期日も開こうとせず,判断すら出そうとしないというものです。一体,何のために作られたのかと憤りを感じます。