11月11日午前10時から東京地裁103号法廷で、福島原発被害東京訴訟・第14回期日が行われました。
今回は原告側から、損害論に関して、いわゆる100ミリシーベルト許容論に対する反論である準備書面(33)、裁判所からの求釈明の回答である準備書面(34)、2008年における津波の知見と被告の責任に関する準備書面(35)及びその関連書証を提出しました。
他方で、被告東電からは、共通準備書面(11)(原告の主張に対する反論)と、被告国からは、責任論に関する第7準備書面が提出されました。
その後、弁護団共同代表である森川清弁護士から意見陳述がなされました。以下でその内容をご紹介します。
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第1 はじめに
原告らは、低線量被ばくの影響から避難の合理性を主張しています。
しかし、被告東電は、被告東京電力共通準備書面(5)及び同準備書面(7)において、担当大臣が設けた放射線物質汚染対策顧問会議のもとに設置された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」によって2011年12月22日にとりまとめられた報告書などに基づいて、100mSv以下の低線量被ばくでは他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいとか、LNTモデルは実証されていないとか主張し、実質的に避難の合理性を争っています。
また、被告国は、本訴訟で低線量被ばくの影響について認否を留保したまま、低線量被ばくについていまだ主張していない状況です。
そこで、被告東電の100mSv以下の低線量被ばくを容認するかのごとき主張について、今回、反論した準備書面を提出しました。
第2 ICRPについて
本書面では、まずICRPについて説明しています。
被告東電は、ICRPが危険率を大きく見積り予防的・実践的な観点からLNTモデルという仮説に立っていると主張しています。そして、ICRPの勧告を引用しながら、あたかも年間100mSv以下の低線量被ばくが許容されるかのごとく主張しています。
しかし、ICRPは、ちがった考え方をもっていると考えられます。被告東電は、ICRPの基本的な考え方について誤解しているか、意図的に曲解しているかのどちらかといわざるを得ません。
ICRP2007年勧告は、1954年の勧告を引用して、ICRPの考え方の出発点は、「すべてのタイプの電離放射線に対する被ばくを可能な限り低いレベルに低減するため、あらゆる努力をすべきである」ことであり、20mSvといった線量拘束値や参考レベルにしておけばいいと述べているのではありません。
文言の変遷はあるにしても、「可能な限り低く」という以上、放射線被ばくはいかに低線量であっても有害であるから低減するためにあらゆる努力をすべきということになります。
大事なのは、ICRPは100mSv以下の低線量被ばくでのリスクの存在自体を認めていること、原発事故によって住民はなんら便益を受けるものではなくリスクを被るのみであってリスクを受ける主体と便益における主体に同一性がないことです。
ICRP1965年勧告は、このことについて、「公衆の構成員は(放射線作業者と異なり)被曝するかしないかに関して選択の自由がなく、かつ、その被曝から直接的利益を何も受けないであろう。」と住民は便益を受けるものではなくリスクを被るのみであることを明らかにしています。また、「どんな被曝でもある程度の危険を伴うことがあるので、委員会は、いかなる不必要な被曝も避けるべきであること」ことも明らかにしています。これらの考え方は、その後の勧告においてさらに線量基準を引き下げたのだから、その後の勧告にも当然の前提として引き継がれているといえます。
第3 いわゆる100mSv容認論について
1 はじめに
被告東電があたかも100mSvまで許容されているかのごとく述べていること、まさに「原発は安全」から「放射能は安全」へというべきものであって福島原発事故が生じて早い時期から登場しており、いろいろと問題点が指摘されています。
2 国連グローバー報告
2012年11月に日本を訪問し、実施した調査に基づく国連グローバー報告は、政府が年間被ばく線量が100mSv未満では癌の過度のリスクはないため、20mSv/年までの地域に住むのは安全であると保証したことを強く批判し、低線量の放射線でも健康に悪影響を与える可能性があるため、被ばく線量が可能な限りに低減されて年間1mSv未満になった場合にのみ、避難者は帰還が推奨されるべきであると、日本政府の対応を問題視しています。
3 原子力村の新たな神話?
京都大学の今中哲二さんは、「100mSv以下心配無用説」に対して、LSSデータがLNTモデルと適合的であること、ムラサキツユクサの照射実験での突然変異、原子力産業労働者データなどをとりあげて批判しています(岩波科学2011年11月号)。
4 LNTモデルに対する誤解
東京工業大学の調麻佐志さんは、「LNTモデルに対する誤解」として、ICRPが単に安全側に立った「慎重に」ではなく、LNTモデルががんリスクについて「科学的に妥当」であるという表現をとっていること、がんリスクは確率の問題を超えて結果が甚大であることを指摘し、低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの見解について批判しています(岩波科学2012年9月号)。
5 統計的有意差の有無と影響の有無
岡山大学の津田敏秀さんたちは、100mSv以下では放射線の影響によるがんは発生しないかのような雰囲気作りがなされていることを批判しています。
ICRP2007年勧告の放射線に感受性の高いがんも低いがんも含めて、すべてのがんに対する分析結果を中心に論じていることについて、100mSv以下の話も、年齢を放射線感受性の大きい低年齢層に限ったり、がんの種類別に分析をしたりすると、影響の見え方や有意差の有無は異なってくると思われると有意差自体が認められる可能性に言及しています。
そして、放射線に対する感受性が高い低年齢層だけに限っても、統計的な有意差は観察されやすくなり、実際に多くの論文で100mSv以下の被ばくで有意な上昇が観察されていることを指摘しています。
100mSv以下の被ばくに関して日本で出回っている誤解は、ICRP勧告にもその他のどの影響評価にも反するものであり、基本的な誤解から生じていると結論づけています(岩波科学2013年7月号)。
そして、津田敏秀さんたちは、2015年10月、国際環境疫学会が発行する医学雑誌に、「2011年から2014年の間に福島県の18歳以下の県民から超音波エコーにより検出された甲状腺がん」という論文を発表し、日本全国の年間発生率と比較して潜伏期間を4年としたときに福島県中通りの中部で50倍であるなどとして「福島県における小児および青少年においては、甲状腺がんの過剰発生が超音波診断によりすでに検出されている。」と結論づけています。
第4 おわりに
よって、いわゆる100mSv許容論こそなんら科学的根拠のないものであって、避難の合理性、必要性は強く認められるべきものです。
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法廷が終了すると、近くの弁護士会館で報告集会が行われ、弁護団から法廷の説明と、参加者からの発言などがありました。
今後の予定は,
2016年 1月20日 10時~ 東京地裁103号法廷
2016年3月16日 10時~ 東京地裁103号法廷
2016年5月18日 10時~ 東京地裁103号法廷
2016年7月20日 10時~ 東京地裁103号法廷
です。傍聴をよろしくお願いします。
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