<朝日新聞2019年10月4日朝刊>
福島県議会は、2011年3月11日に発生した福島原発事故による放射線被ばくを避けるために、福島県内から東京都内に避難し、避難者用の住宅として提供されていた都内の国家公務員宿舎に住む5世帯の避難者に対し、住宅の明渡しと賃料相当損害金の支払いを求めて、提訴することを可決しました。
この対象となった5世帯のうち、4世帯の避難者は、今東京地裁、東京高裁でたたかわれている福島原発被害東京訴訟の原告でもあります(加害者である東電と国を被告とした損害賠償請求の裁判)。
そこで、去る10月3日の夕方、急遽記者会見を行い、原告団の抗議声明を発表しました。
【なにが問題なのか】
そもそも、上記の5世帯が住んでいる国家公務員宿舎は、当然国の所有物ですから、本来避難者に対して明渡しを請求するのであれば、国が自ら当事者となって手続を行う必要があります。
しかし、仮に国が直接の当事者となって原発事故の避難者に対して住宅の明渡請求を行なった場合、原発事故の加害者である国が、被害者である避難者に対して、避難用住宅からの追い出しを図っているということで、大問題となります。当然、裁判でも国の責任をめぐって紛糾することが予想されます(ちなみに、福島原発事故に対する国の加害責任については、上記福島原発被害東京訴訟第1陣訴訟の第1審である東京地裁平成29年3月16日判決をはじめ、各地の裁判所で認められています)。
そこで、国は、卑劣にも、原発事故発生地の福島県に対して、2019年4月以降の国有財産(上記都内の国家公務員宿舎)の使用を認める許可を出します。
そこで、国から使用権限を与えられた福島県は、上記5世帯の国家公務員宿舎は、当然避難者が居住していて、福島県自らが使用することができないという理屈(屁理屈?)で、上記使用権限に基づいて、原発事故の避難者5世帯に対して住宅の明渡しを迫っているのです。
このように、国がそこに居住する避難者に断りなく、第三者である福島県に対して使用許可を与えた実質的な目的は、国の手を汚さずに、福島県を使って避難者の追い出しを行わせようとするもので、そのやり方は卑劣極まりません。いわば、福島県は避難者「追い出し請負人」というわけです。
そして、第三者に追い出しをさせる目的で、国家公務員宿舎(行政財産)の使用許可を与えることは前例もなく、国有財産法18条6項の行政財産使用許可制度の趣旨や、弁護士以外の者による債権取り立てを禁止している弁護士法72条にも著しく反するものです。
【避難者いじめの不正義を許してはならない】
今回明渡請求の対象となっている上記5世帯は、いずれも政府による避難指示区域以外の地域から避難している世帯です(区域外避難者)。
ですから、加害者である東電からは、ほとんど賠償を受けていませんので、経済的に大変苦しい世帯も少なくなく、避難者用住宅の無償提供は、区域外避難者に対する数少ない行政的支援だったのです。国と福島県は、その区域外避難者に対する最低限の支援すら打ち切り、区域外避難者をさらなる困窮に追い込もうとしているのです。
避難指示区域外の地域であっても、現在も空間放射線量が高い地域もあり、土壌の放射能汚染が深刻な地域も少なくありません。ですから、避難元に帰って安心して暮らせるという環境とは必ずしも言えない状態が続いていますし、幼い子どもさんがいる世帯では、なおさら帰ることには躊躇してしまいます。
今回の国と福島県の上記対応は、こうした区域外避難者に対して、事実上避難を打ち切って避難元に帰ることを強要するものであり、決して許される行為ではありません。
さらに、上記で見たとおり、明渡請求の対象となっている5世帯のうち、4世帯は現在裁判でたたかっている福島原発被害東京訴訟の原告です。
ですから、今回の避難者追い出しの措置は、事実上、福島原発被害東京訴訟の原告を狙い撃ちにして、同訴訟の継続を困難にさせようとするものです。
原発事故の加害者によるこのような不正義を決して許してはなりません。
今後、福島県による提訴がなされた場合には、我々は徹底的にたたかう覚悟です。
どうか、皆さまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20191003003734.html