カテゴリー別アーカイブ: 弁護団の考え

時効問題の本当の狙い!?について

原発事故から2年が経過します。最近では,「時効」ということが,話題になります。そこで,このことについて,若干解説をしたいと思います。

今年の2月4日,政府は,東京電力と原子力損害賠償支援機構(支援機構)が提出していた総合特別事業計画の変更を認定しました。この総合特別事業計画は,原子力損害賠償支援法46条1項にもとづくもので,要するに,東京電力が支援機構を通じて国から賠償金の支払い原資を補填してもらう際に,事業計画を提出するというものです。そして,今回の総合特別事業計画では,時効問題への対処が記載されていたようです。
東京電力は,同日付で,「原子力損害賠償債権の消滅時効に関する弊社の考え方について」というものを公表しました。
そこでは,
・予め時効を主張しないとこと(時効援用の放棄)は民法146条によりできない。
・消滅時効の起算点は,「中間指針等に基づき賠償請求の受付をそれぞれ開始した時」である。
・時効中断事由(要するに,時効の進行を最初からやり直すこと)は,「請求を促す各種のダイレクトメールや損害額を予め印字する等した請求書を受領した時点」である。
ということが述べられています。

果たして,そうなのでしょうか?
確かに,民法の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間は3年とされています(原賠法の請求も,国家賠償法の請求も民法の規定によるので同じです。)。
しかし,民法724条では,「・・・損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する。」となっています。つまり,「損害」と「加害者」を知ったときからなのです。そして,原発事故により,放射性物質は,環境中に拡散し,蓄積し続けており,将来にわたり残り続けていますし,除染も困難な状況です。直接の被ばくや汚染食品等の経口摂取等を通じて,健康に長期的な影響も懸念されています。また,長期の避難生活,避難せずに滞在する人・戻った人も放射能汚染を避けるために様々な制約(子どもの外遊びの自粛など)を長期間受け続けています。これらをはじめ様々な被害が進行しているのですから,「損害」は全体として把握されていません。したがって,「損害」を知ったとはいえないのであり,時効の期間は進行していないと考えるべきなのです。
となれば,今の時点で,時効は問題とならないはずです。
しかも,このような重大な事故を引き起こした国・東京電力が時効を援用すること自体が権利濫用と言うべきものです。

東京電力も,自分たちの考え方に対する反論・批判が出ることは,予想していたはずです。では,なぜ,このようなことを東京電力は言いだしたのでしょうか?
それは容易に想像ができることです。
<原発事故の被害者に対して,『時効』の可能性があることを伝える>
→<被害者が,心理的に動揺する。>
→<不安になり,もはや時間がないと考える。>
→<東京電力の定めた低額な賠償基準で妥協する。>
ということを期待しているからでしょう。

これまで,東京電力は,自らが加害者でありながら,一方的に賠償基準を定め,これを押しつけてきました(区域外避難者・滞在者に対しては,金額すら印字していました。)。通常の事件では到底あり得ないことです。それに加えて,損害賠償を消滅させる時効の起算点までをも自ら決めようとしています。不遜極まりないものであり,到底許されないものです。

私たち,被害者とともにたたかう法律家集団は,こうした東電の考え方が誤っており,不当であることを広く伝えていかなくてはならないと考えます。
また,このような東電による時効の誤った考えが出たことによる動揺・混乱を避け,原発事故の被害者をひとりでも切り捨てることのないようするためにも,原発事故による損害賠償については民法の時効規定を適用しないとする特別法の制定を求めていかなければならないと考えます。

【集会報告と集会宣言】動き出そう!第2回3・20広域避難者集会 in 東京

3月20日,都内で「動き出そう!第2回3・20広域避難者集会 in 東京」が開催され,約40名ほどの被災者・避難者,支援者などが参加しました。当弁護団も共催です。

当日は,第一部シンポジウムとして,東京災害支援ネット(とすねっと)代表の森川清さんから被災者・避難者支援の政策に関する現状と課題について,きらきら星ネット共同代表の信木美穂さんから避難世帯の支援の現場報告について,当弁護団の共同代表の中川から原発賠償,特に訴訟についての報告がなされました。

続いて,第二部では,被災者・避難者のリレートークが行われ,多くの被災者・避難者が今置かれている状況の困難さ,将来への不安,苛立ちなど,心から訴えていました。参加者は,そうした声を,みんなで聞き入っていました。このリレートークの内容については,まとめた上で,政府に伝えていくことになります。

3.20集会

[写真は,集会の様子。上段右は,東京訴訟の原告の鴨下さん]

そして,さいごに,集会宣言が採択されました。以下,宣言をご紹介します。

集会宣言

  東京電力の福島原発事故から2年がたちました。
今も、福島県、栃木県などの幅広い地域が、放射能によって汚染され、その空間放射線量は高いままです。また、福島第1原発4号機などの使用済み核燃料プールも不安定で、停電や地震などをきっかけとして臨界事故が起きる可能性があります。
被ばくや事故の危険から逃れるため、15万人以上が全国各地に広域避難を続けています。しかし、避難者や放射能汚染地域の住民に対する公的な支援は十分では ありません。原発事故子ども・被災者支援法は昨年6月に成立しましたが、支援の前提となる基本方針の策定はストップしたまま。逆に、高速道路の有料化や、新しく避難する人に対する住宅の提供の打切りなど、支援の打切りが進んできました。
こうした状況の中、昨年の広域避難者集会では、区域外の 避難者・住民に対する高速道路の無料措置の継続を求める声が上がり、これをきっかけとして無料措置を求める動きが全国に広がりました。政府は、今月15 日、ついに一部の区域外避難者に対して無料措置を再開するとの発表を行いました。1年間にわたって署名活動、集会や申入れを行い、動き続けたことで、重い 扉が少し開いたのです。
原発事故が起きた責任は、政府と東京電力にあります。半恒久的な避難住宅の提供、国による健康・被ばく検査、医療費 の公費負担、避難先での住民並みサービスの拡大など、支援の扉はもっと大きく開かせなければなりません。東京電力の不十分で頑な賠償の姿勢も、裁判に追い 込むことで、改めさせなければなりません。十分な支援と賠償を実現させるためには、ひとりひとりが、政府やマスコミ・一般市民に対して働きかけを強めてい く必要があります。
きょうは、避難世帯の皆さんから、たくさんの声が上がりました、次は動き出す番です。来月には政府に要望書を提出します。黙っていては何も変わりません。みんなで一緒に、動き出しましょう!

平成25年3月20日
「動き出そう!第2回3・20広域避難者集会in東京」参加者一同

4弁護団の共同記者会見

本日,3月11日に国と東京電力を相手とする訴訟を提起する4つの弁護団[福島原発被害首都圏弁護団,原発被害救済千葉県弁護団,「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団,福島原発被害弁護団]が都内で共同の記者会見を行いました。
当弁護団も訴訟の概要とともに,原発賠償において被害者が置き去りにされていること,区域外避難者のおかれた状況,区域内外を問わず被害者全員が救済されるべきであること,賠償問題のみならず責任ある恒久対策の必要性,そのためには国・東電の加害責任を明らかにする必要があることを述べました。
また,会見では,4弁護団の共同の声明が出されました。
4弁護団共同声明

なお,こうした提訴の動きは,4弁護団のみならず,夏から秋に向けて,各地にある弁護団であると聞いています。私たちは,こうした全国各地の弁護団と協力して,すべての被害者の被害救済と生活再建を求めていきたいと思います。