公害における「起承転結」[「公害原論」(宇井純 著)から]

みなさんは,宇井純さんをご存じでしょうか?
公害・環境問題研究の先駆者であり,第一人者でした。東大の大学院生・助手時代から水俣病の現地調査を行い,国内外で水俣病の問題を告発してきました。大企業や政府の立場ではなく,公害被害者の立場に立って研究活動をしていました。そのためなのか東大では長年にわたり「助手」に据え置かれたままでしたが,後に沖縄大学の教授となり,精力的に沖縄や世界の環境問題に取り組まれていました(2006年死去)。

彼の著作物に「公害原論」というのがあります。これは,1970年10月から東大工学部で夜間の自主講座として市民向けに行った「公害原論」の講義録です。

同書の98~99頁には,次の内容が記載されています(引用の頁は,「新装版 合本 公害原論」)。
「・・・公害には四つの段階があるらしい。それは起承転結である・・・公害というものが発見され,あるいは被害が出る。それに対して原因の究明,因果関係の研究(第一段目)というものが始まりまして,原因がわかる。これが第二段目とします。そうしますと原因がわかっただけで決して公害は解決しない。第三段目に必ず反論が出てまいります。
この反論は,公害を出している側から出ることもある。あるいは,第三者と称する学識経験者から出される場合もあります。いずれにせよ反論は必ず出てまいります。そうして第四段は中和の段階であって,どれが正しいのかさっぱりわからなくなってしまう。これが公害の四段階であります。この順序が昔から漢詩で使われております起承転結の原則と似ておりますので,起承転結の第一法則と私は言っております。ただ結できちんと締らないところが公害の特徴であります。・・・」

今回の原発事故における放射能汚染被害,健康への影響についても同じ展開になっていることを痛感します。

私たちは,原発事故という未曾有の公害とたたかうことになりますので,これまでの常識・法律論などにとらわれない柔軟な新しい発想が必要ではありますが,他方で,過去の公害事件・薬害事件などの経験・教訓を学び,生かしていかなくてはならないと思います。

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